『 苦痛の意味 』

 池田町 浄妙寺 野村 法宏 師


  テレホン法話をお聞きの皆さん、『バカの壁』という本をご存知でしょうか?鋭い社会批評で知られる解剖学者、養老孟司さんが書いた新書サイズの本で、大ベストセラーとなつています。刺激的なタイトルではありますが、「バカの壁」とは、私たちのまわりに立ちはだかつている意識の壁のことで、その壁について新しい視点を提示しているのだと思います。
 この本、あの永六輔さんの『大往生』を超えるハイペースで売れているそうです。その訳は、養老孟司さんが氏の考えをやさしい語り口でつづり、多くの人の共感を集めているところにあるのだと思います。私なんか、「目から鱗」の連続でした。
 私が考えさせられた一つは「苦痛の意味」という章でした。一部を引用してみますと苦痛を悪だと考えてはいけない。そうでないと、患者は苦痛で苦しいうえに、その状態に意味が無いことになって、二重の苦しみを味わうことになります。
苦痛にも意味がある、ひいてはどんな人生だろうが意味がある。どんな苦痛や苦しみにも意味があると問い続けることが大切だと。
  樹海での自殺者の話が紹介してあります。地元の人が樹海を捜索していると、自殺しそこねた人が現れて「クビを吊ったら枝が折れて落つこちて身体を打った。死ぬかと思つた」
これは笑い話ですが、この自殺者も首を吊りそこねてお尻を打ったことで、別の世界が見えてきたにちがいありません、と。
 苦痛・苦しみがそのままよろこびに転ぜられる世界がある。お念仏をとおして聞き開か本れていく大地に樹っているのです。

                               合掌